東京地方裁判所 昭和41年(ワ)8166号 判決 1967年11月13日
原告 ロジ・ウント・ウイネンベルゲル・アクチエンゲゼルシヤフト
被告 株式会社マルマン
主文
1右当事者間のスイス連邦チユーリツヒ州商事裁判所一九六四年第一〇〇号特許無効確認請求事件について、同裁判所が一九六五年五月二五日言渡した、被告は原告に訴訟費用諸手続費用合計金四、〇〇七・四スイスフランを支払うべし。との判決、および同裁判所一九六五年第五〇号審決取消請求事件について、同裁判所が右同日言渡した、被告は原告に損害賠償金二、五〇〇スイスフランを支払うべし。との決定に基いて強制執行をすることを許可する。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、
一、原告は一九六四年被告を相手取りスイス連邦チユーリツヒ州商事裁判所に被告の有するスイス特許第三七三二〇八号「伸延及び屈曲可能な腕バンド」の特許無効を確認する訴訟を提起したが(同庁同年第一〇〇号事件)被告はチユーリツヒの弁護士コレラード・フエールを代理人としてこれに応訴し、かつ一九六五年原告の有するスイス特許第二九六四二三号および第三二八九九一号(これら特許は「装飾および実用目的の伸延可能なリンクバンド」に関する)の特許無効確認請求の反訴を提起した。
二、右裁判所は、同年三月二七日右反訴を管轄違の理由で却下する旨決定したが、その際右反訴事件は本訴事件より分離さるべきであつたのにこれがなされなかつたので、一九六五年五月二五日右両事件を分離し、反訴事件につき同庁同年第五〇号の事件番号を付したうえ、本訴事件につき原告勝訴の判決を言渡し、同判決において被告に対し訴訟費用金一、〇〇七・四スイスフラン、諸手続費用三、〇〇〇スイスフランを原告に支払うよう命じ、また反訴事件についても同日被告に対し、反訴に応訴しなければならなかつた原告の損害の賠償として金二、五〇〇スイスフランを原告に支払うよう命ずる決定を下し、本訴事件の右判決は同年七月九日、右決定は同年六月二九日それぞれ確定した。
三、よつて、右判決ならびに右決定について執行判決を求めるため本訴提起に及んだ。
と述べ、
証拠<省略>
被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁として、請求原因第一項は認めるが、同第二項は不知と述べた。(立証省略)
理由
一、原告が、被告を相手に一九六四年スイス連邦チユーリツヒ州商事裁判所に被告の有するスイス特許第三七三二〇八号「伸延及び屈曲可能な腕バンド」の特許無効確認の訴を提起し、被告がこれに応訴したことおよび被告が一九六五年原告の有するスイス特許第二九六四二三号および第三三八九九一号(いずれも「装飾および実用目的の伸延可能なリンクバンド」に関する特許)の特許無効確認の反訴を提起したことは当事者間に争いがない。
二、外国の公文書であつて真正に成立したと推定される甲第一号証の一、二、同第三号証および同第四号証によると、右裁判所は、同年三月二七日右反訴を管轄違いの理由で却下する旨決定したものの、その際同事件を本訴事件から分離することと右決定の附随裁判の言渡しを看過したので、一九六五年五月二五日、反訴について「一九六五年三月二七日附(反訴の却下についての)決定を補足し、この反訴に訴訟番号50/1965を附して本訴より分離し且つ解決ずみとする」旨決定し、同決定主文中において訴訟費用等の附随裁判をなすと同時に、反訴に対して応訴しなければならなかつた原告の損害の賠償として「被告即ち反訴原告は本件訟訴手続の賠償として原告即ち反訴被告に対し二、五〇〇フランを支払うべし」と命じ、本訴についても同日「1一九五九年六月一〇日出願一九六三年一一月一五日登録のスイス特許第三七三二〇八号『伸延及び屈曲可能な腕バンド』の無効を宣言する。2定額訴訟費用-五〇〇フラン、その他特別費用-二一二・三〇フラン(書記料)、九フラン(呼出料)、五八・五〇フラン(送達、郵税及び電話料)、二七・六〇フラン(特許公報掲載嘱託料)、二〇〇フラン(ドクトル・ザルツマンの尽力に対する報酬)。3費用は被告の負担とする。4被告は原告に対し三、〇〇〇フランの諸手続費用(Weisung Kosten)を賠償すべし」との判決を言渡したこと、右各裁判について同裁判所が法律上適法な管轄権を有することおよび右決定は一九六六年六月二九日、右判決は一九六五年七月九日、それぞれ確定したことが認められる。
三、前掲甲第四号証ならびに外国の公文書であつて真正に成立したと推定される甲第二号証によると、スイス連邦チユーリツヒ州民事訴訟法第三七七条は「外国裁判所の判決はそれが既判力を有するならば(第一〇七条)執行される。但し相互の保証がないときには、執行は拒絶される。」と規定し、また同第一〇七条には「外国裁判所の裁判は、それが当該裁判所において適用される訴訟法に従つても既判力を有することになり、かつ外国および当地の訴訟法規のいずれに従つても裁判権が現存していたならば既判力に関してはチユーリツヒ州の裁判と同一の効力を有する。但し、その判断がチユーリツヒ州における公法に反するものであるときは既判力は認められない。」の規定されていることが認められる。しかして、スイス連邦チユーリツヒ州において、外国判決が執行されるためには
(一)、外国判決が既判力を有すること、
(二)、外国裁判所が裁判権を有すること、
(三)、外国判決が公序に反しないこと、
(四)、相互の保証があること、
の四条件を具備すれば足りるのであつて、同州の裁判所がこれら条件を具備した外国判決に対しその効力を承認していることも明白である。
四、ところで、原告が本訴において執行判決を求めているスイス連邦チユーリツヒ州の前記裁判中には被告に対し二、五〇〇フランの支払を命ずる決定が含まれているところ、決定であつてもそれが外国裁判所の裁判というに妨げないのであるから、わが国においては、民事訴訟法第二〇〇条準用するのが相当であり、したがつて、外国裁判所の判決と同一の条件でその効力を承認しうると解するのを相当とする。けだし、スイス連邦チユーリツヒ州の裁判所が同州の前記条項の解釈に当り、右と同様に外国裁判所の決定にその効力を承認しているか否か疑義の存するところであるが、前掲甲第二号証によると、外国裁判所が下す決定もチユーリツヒ州で執行できるものであることについては疑いがないとされていること、また、同州の民事訴訟法規にも外国裁判所の決定に対しその効力を否定する特段の規定も見当らないことに鑑みれば、同州においても外国裁判所の決定につき、その判決と同一条件において効力を承認しているものと解せられるからである。
五、そこで、本件チユーリツヒ州の各裁判がわが国民事訴訟法第二〇〇条の要件を満すものであるかどうかを考えるに、右各裁判につき、同州商事裁判所がその裁判権を有することは前掲甲第三号証により明らかであり、敗訴した日本国法人たる被告が原告の訴に対し応訴若しくは反訴を提起したことは当事者間に争いのない事実であつて、更には、右チユーリツヒ州商事裁判所の各裁判が公序良俗に反するものでないこともその裁判自体から顕著なる事柄である。そして、前判示のとおりスイス連邦チユーリツヒ州において、外国判決の効力を承認する条件もわが国民事訴訟法第二〇〇条に定める要件に比し寛い条件であることが明らかである。
六、そうだとすると、原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 下関忠義 中島恒 大沢巖)